Pay it Forward,By Gones

上越教育大学 教職大学院 教授 片桐史裕のブログ

なぜ勉強をするのか?

 「周りのみんなを幸せにする。」ためであってほしい。もちろん狭義の「勉強」は自分の探求心を満たすため、自分の趣味のため、自分の目的のためだけにしてもいいのかもしれない。しかし、みんなは自分の力だけで勉強をしているわけではない。周りからいろんな助けをもらって勉強をしている(保護者や周りの人、自治体からお金、手間、時間を贈与されている)。その勉強の成果は助けを与えてくれた人ではなく、次の世代の人々に送ってほしい。恩を「返す」のではなく「送る」のだ(Pay Forward・恩送り)。
 30年前よりも、今の世の方がいい世の中だろうか?今から30年後の方はぜひとも今よりよい世の中になっていてほしい。そのためにみんなが勉強して、その力を世の中に役立ててほしい。

 それでは勉強するとどうして世の中に役に立つことができるのか。
 昔、ロシアの教育心理学者がこのような実験をした。

犬  鶏  小麦  庭木   ←これらは何か?

 教育を受けていない人は「あ、これ、隣のペドロフさんの家のものだ。」と言った。
 教育を受けている人は、「これは『生き物』のグループだ。」と答えた。
 これらの質問から教育心理学者は教育を受けている人と受けていない人の違いを明らかにした。それは簡単に言えば、目の前の具体的なモノだけしか見えないか、目の前の具体的なモノから、上位概念を作ることができるか、ということだ。教育を受けることにより、目の前のモノから、見えないモノを見ることができるようになる。

 勉強することにより見えないことを客観的に見られるようになる。見られるようになると不安が無くなる。不安が無くなるとコントロールすることができる。コントロールは何によってなされるのかというと、先ほどの例では「生き物」という言葉によって4つのモノもをとらえたように、われわれは目の前の対象や、現象、事物を「言語」によってコントロールすることができるのだ。(現代文教科書「ものとことば」参照。)
 そうすると、自分の内部でわき起こる感情や思考を言語によってコントロールできる。自分が陥った状況を分析して、打開策を見つけることができる。自分たちの状況をよりよい方向へと解決策を考えられる。今現在日本が陥っている危機から脱出できるという希望を周りの人々に与えることができる。そういう力を勉強することにより付けられる。

 こういうことは、若いときから意識していなければならない。「自分は将来、次世代の集団を支えるフルメンバーになるんだ。そのために何をすればいいのか。」と考えていなければならない。自分のことばかり考えている人間は、大人になっても集団を支える人間になれない。それができるようになるために学校があると言ってもいい。なぜなら日本もしくは多くの国においては学校だけが同世代の若者が集まっている異様な組織だからである。そういう組織だからこそトライ&エラーができ、失敗してもやり直せるのだ。失敗しながら周りのことを考えられる人間になり、将来の集団を支えられる人間になってほしい。そのための勉強である。