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上越教育大学 教職大学院 教授 片桐史裕のブログ

児のそら寝


今日の「中学校高等学校国語科授業づくり演習」のテーマは古文教材「児のそら寝」だった。この題材は高校1年生の一番初めに扱う古文ということころが多い。教科書を比べると,1年生の最初ということで,ほとんどの文章の脇に訳注が付いているものから,脚注がふんだんにあるものから,いろいろだ。

この文章で敬語を学ばせるとどこかで書かれてあったと紹介してくれたが,どうしてこの時期にこの題材で敬語をするのかちょっと疑問だ。しかも,僧が児に対して敬語を使っている。この用法はどうしてなんだ?児が「公家・武家などの子弟」ということで敬語を使っているのか?とも思えるが,僧が児を子ども扱いにしてわざと敬語を使っているとも考えられる。フォーマルな感じの敬語ではないから,人間関係が分からないまま敬語を扱うのは学習者の混乱を呼ぶだろうと意見は一致した。

この題材の課題をどうするかで,いろんな意見が出たので,列挙していく。

  • どの教科書にも「笑いを説明しなさい」というのがあるけれど,この課題はなんかぼんやりしている。
  • 「児」って性格が悪いんだか,幼いんだか,よく分からない。
  • 注に「公家・武家などの子弟で,寺社で雑務をする少年」にあるから,行儀見習いの年なんだろう。今でいう中学生くらい?
  • 何歳くらいかというのを,歴史の資料を持って来て解釈するのではなく,文中から根拠を見つけて推測していくのが「国語」の目標になるんだろう。
  • 「し出ださむを待ちて寝ざらむも,わろかりなむと思ひ」とあるんだから,そのくらいのことを考えられるということは,小学校低学年じゃないよね。
  • そして「さだめておどろかさむずらむ」と期待できるくらいだから,小学校6年生くらい?
  • このくらいのことだったら,中学生でも考えるよね。
  • それでも,ぼたもちがなくなりそうだから「えい」と返事をするって,結構幼いところもある。
  • こんな児の年齢を文章中から根拠を見つけて考えるというのって,おもしろい。
  • 学校で,この話を現代に置きかえてストーリーを作りなさいという実践をした方がいて,みんなでカラオケに行こうって話が盛り上がっているんだけれど,一人が寝ているという設定で作った生徒がいた。
  • いったい児はどこで寝ていたんだろう?
  • 台所の近くっていうことだよね。
  • 台所の近くには寝室ってないよね。疲れ果てて横でコテンって寝たのかな?
  • そうなると児のかわいさが出てくる。
  • 児はいつも怠けるやつなのか,可愛らしい子なのか,その設定で変わってくるね。
  • 敬語なんだけれど,僧が児に敬語を使っている。児から僧には話しかけていないんだけれど,これって,どちらも双方で敬語を使い合っているって考えられるんじゃない?今でいうミッション系のお嬢様学校の感じで。
  • 先生から生徒に対しても敬語使うしね。
  • 地の文を見ると,僧や児に対しての敬語は使われていない。本当に児が高貴で敬語が使われているんだったら,地の文でも敬語があるはず。
  • テストを作るんだったら,どんなのを作りますか?「何歳か?」ということを授業で課題にして,テストはどう訊くのかな?と思って。
  • 「文中より根拠を出して,年齢を説明しなさい。」かな?根拠と年齢が論理的に説明してあれば○かな?
  • 他の所だったら,「「ずちなくて」とある児の感情を説明しなさい。100字程度で。」かな?ちゃんと内容をわかっている人だったら,直前の表記ではなく,食べたいんだけれど,すぐに起きないで待っていたということも書くだろうから。
  • この僧たちの笑いって決め手がないよね。
  • 「無期ののちに」ってあるけれど,何の後かっていうと,「おどろかせたまへ」の後だよね。起こされたことに対する「えい」の返事だから,「いったいいつ返事してんの?」ということで笑いが生まれているんだよね。
  • そうか,「僧たち笑ふこと限りなし」を説明するじゃなくて,「どんなツッコミの言葉をかけたらいいか?」という課題だったら,笑いが説明できる!
  • なるほど!


古典学習の1つの意味は,現代では分からない文化や時代背景を言葉から推測できるということ。現代文だったら言葉を読まなくてもなんとなく雰囲気でわかるところがあるから,そうなると言葉を学ぶことにならない可能性が出てくる。古典だからそれが出来るということが今回の授業でわかったことだ。