Pay it Forward,By Gones

上越教育大学 教職大学院 教授 片桐史裕のブログ

高等学校訪問


在学中の院生さんを連れて、新潟工業高等学校と新潟中央高等学校を訪問してきた。参加した院生のストレート生はみんな高校教員志望だし、現職の方は現役高校教員だ。

かねてから主張してきたが、教員になる方のほとんどは、専門高校を知らない。特に小学校、中学校の教員はほとんど知らないと言ってもいい。当たり前のことだが、高校教員も、専門高校に勤務したことがない人は、全く知らない。小学校、中学校の先生は専門高校のことをほとんど知らず、中学卒業時の進路指導をしなければならない。知らなければ、「普通高校至上主義」教育に使ってきた人は、普通高校「いいもの」という幻想に取り付かれたままで進路指導をしてしまうことになってしまう。これは恐い。

ということで、専門高校(今回は工業高校)を訪問し、生徒指導、進路指導、設備などの教えを請うことにした。実は夏に以前の同僚と飲んだときに話がまとまり、実現した次第だ。

新潟県随一の設備を誇る新潟工業高校を訪れた。想像以上の設備の充実に驚いたし、生徒たちの実習の姿を感心して見ていた。教頭先生に案内され、実習の授業を訪れ、生徒に今やっていることの説明をしてもらった。みんな適切に説明してくれて、誇らしげに作業をしたり、機械を動かしたりしている。こんな技術が高校時代に付けている姿を見て、参加者からは「普通高校って何やっているんだろう……?」というつぶやきがでた。


進路指導の説明を受けた。専門高校枠推薦で、新潟県内の国立大学に2桁人数入っている。上越教育大学も工業科や商業科などの教員免許が取れるんだから、専門高校枠を作った方がいいのではないか?と思ってしまう。静岡大学教育学部は既におこなっている。

それは別として、新潟大学に入るのがいいのか、JR東日本東北電力、または国土交通省に就職するのがいいのか、これは工業高校に行けば、選択が可能になる。もちろん学業成績が高くなければならないのだが、大学進学したいとありきたりの普通高校に行ったら、こんな選択は無い。このことを中学生たちは知らされずに、普通高校がいいものだと思わされて行くことになっている現状がある。

生徒指導(いじめ対策)についてもお話を伺った。事件があってから、いじめ発見、対策の詳細なシステムを構築し、毎月アンケートを行い、その回答を全て拾い上げ、気づいたことがあったら徹底的に対応するようにしたそうだ。これを全校的な取り組みにしたことで、些細なことでも生徒はアンケートに反映するようになったし、情報の共有化が容易になったそうだ。

それらの情報の共有システムを構築し、何かがあったらその情報を閲覧できるようにしている。ちょっと気になることがあったら、その情報を閲覧し、過去の指導歴、行動歴を参照し、対策をとることができる。

このような体制づくりは容易なことでは無かったと思うが、全体の問題とすることで、担任がいじめ問題を抱え込まなくなるというメリットが生まれているようだ。学級担任は全てのことを一人でやらなければと思い悩む傾向があり、それが教員としての能力だと思い込むことがある。それでは情報の共有化がされず、負担になり、気づくことが遅くなり後手後手に回る可能性がある。

言葉が悪いかも知れないが、「気軽に」情報を共有することができ、風通しがよくなったというメリットが一番大きいものだと思う。

ラグビー日本代表の稲垣啓太さんが寄付して天然芝化されたラグビー場がとてもよく映えていた。


2日目は新潟中央高等学校を訪問した。昨年まで私のゼミ生だったU君が新採用で赴任した学校だ。私のかつての勤務校に赴任するなんて、面白い因果を感じた。

初任者ながら、堂々とした態度で授業をおこない、基本的なポテンシャルが高く、さすが上教大学部出身だと思えた。面白かったのは、大学院時代フィールドワークで授業をおこなったときと口調が変わっていたと言うこと。どちらも高校生相手なのだが、なんだかちょっと違う。学校実習と仕事とでは話し方が変わっているのだろうけれど、分析しないと何がどう変わっているのかわからない。

学校現場の目標と、自分の理想と合致しない部分はあると思うが、これから何十年も仕事をしていく上で、自分の理想を絶対に忘れないようにとアドバイスをした。

次の時間は、元同僚のT先生の英語の授業を参観した。T先生の授業は初っぱなから座席が中心に向いており、グループ活動、ペア活動、発表等しやすいようになっている。ほとんどの指示が英語でなされ、生徒も英語を話す、読むという活動が随時おこなわれている。

授業デザインも工夫され、宿題をもとにしたペアトークからのグループトーク、グループの代表のスピーキングを周りが助け合う形にしたり、文章の概略をつかむために、学習者自身から疑問、質問を引き出させたりというように、55分間の授業で全体が6セクションとなっていた。生徒を飽きさせない、活動をつづけさせる工夫が満載だった。

ペアで本文理解をするときに、辞書を引かなくても不明部分を2人で解決していく姿があり、どうやって解決しているのかとても知りたくなった。ICレコーダーを送るから、会話記録を録ってもらおうかと思っている。

久しぶりにいい授業を見せてもらった。

授業検討会をおこない、その後音楽科の施設を見学した。私は長年勤めたところだから、だいたい見たことがあるのだが、他のみなさんは施設の素晴らしさに度肝を抜かれていた。あんな立派なコンサートホールが公立の高校にあるなんて、想像が付かなかっただろう。

この学校訪問の実現には両校の校長先生を初めとする管理職の方々、元同僚の先生方にとてもお世話になった。これを機に、高校現場と大学の繋がりを深めていきたい。大学が高校現場を理解するということこそが、高大接続で求められることなのでは無いかとも思う。