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上越教育大学 教職大学院 教授 片桐史裕のブログ

天上の葦 〜文学の力〜

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「天上の葦」上下巻読了

物語(文学)は、フィクションであるが、フィクションであるからこそ与える影響というものがある。それは「人の心にダイレクトに入り込んでくる」という力だ。それは映画やマンガなどにも言えることなのだが、設定はフィクションで、もしかしたら「あり得ない」ことを描いている可能性もあるのだが、「ひょっとして、こういうことってあるのでは?」と思わせてしまうことが物語の力なのだと思う。

そして物語は作られた時代を必ず反映している。その時の流行りだったり、世の雰囲気だったり、危うい空気だったり、必ず生み出された時代の空気を感じて、捉えて、それに乗ったり、抗ったりしている。それは「売れる」ためには当たり前の仕組みである。そうだからこそ、その時代を忠実に描き出されたものだとも言える。

この数年、私は映画や小説で、国家権力による報道の弾圧が描かれた映画や小説に接している。それは、自分がそういうことに興味を持っているということもあるのだとは思うが、世に出される絶対数が多くなり、それによって私も興味関心を持って観たり読んだりしているということも言えるだろう。

「天上の葦」のキーワードとして、「小さな火のうちは消せるが、大きくなると戦えない」というものがあった。この2020年の日本はまだ「小さな火」のうちなのだろうか?そうであってほしいからこそ、そういう物語が「まだ」世に出ているのだと思いたい。そうでなくなると、「週刊誌」でさえも、報じられなくなる。NHKを初めとする大きなメディアへの弾圧は、現政権では当たり前のようになされているのが現実だと、私のようなメディア論素人でもわかる。

それに対する危機感から「天上の葦」は生まれたといってもいい。

ミステリーであり、現代小説であり、探偵シリーズでもあるエンターテインメントなんのだが、社会派の読み応えのある小説だった。このシリーズはまだ映像化されていないのだが、主人公の鑓水は、個人的には物語シリーズの「忍野メメ」だな、と思いながら読んでいた。