Pay it Forward,By Gones

上越教育大学 教職大学院 教授 片桐史裕のブログ

「野火」とゾンビ

大岡昇平原作,塚本晋也監督2015年版「野火」を観た。AmazonPrimeで,「そろそろ見放題終了」と出たので,今のうちに観ておかねばと思った。

とにかく凄惨な映像が続くのだが,フィリピンの昼間の緑の美しさと,生きるために何でもする人間のどす黒さが対比されていたことが印象に残った。

日本軍のフィリピンからの撤収が決まり,生きるためには輸送船が出る地まで行かなければならない。そのためには夜,闇に紛れて平原を抜け,山を越えなければならない。アメリカ軍はそれを待ち伏せし,照明を浴びせ変え,一斉砲撃をする。その映像が生々しい。頭は砲弾でぶっ飛び,血が噴き出し,内臓はだらだら地面にこぼれ落ちていく。腕や足は散らばり,自分のものを探して兵士は拾う。

実は前日ゾンビ映画*1を劇場に観に行ったのだが,「野火」の映像を観ていて,これってゾンビ映画とほぼ同じだなと気づいた。ゾンビ映画やドラマはほとんど見ないのだが,ちょっと観たことがある「ウォーキングデッド」にも,こんなシーンがあったなぁと気づく。

その戦闘が終わり,前にも後にも勧めない兵士たち,そのジャングルで野垂れ死ぬしかない兵士たちの容貌がゾンビにだんだん似てくる。全身が黒くなり,腕や足が無い人がそこら辺に散らばり,死にかけている人に虫が湧く。あの,以前に観たゾンビドラマは,この戦場を模しているのか?とも思った。

どこにも行けず,さまよい歩き,人肉をむさぼり食おうとする。まさにゾンビだ。これが現実の戦場で起こっていたのだ。

カメラを止めるな!」では,「最近のゾンビ映画では,ゾンビがナイフも持ちますし,機関銃も持ちます。」というセリフがあった。兵士=ゾンビだったら,ナイフも持つし,手榴弾も持つし,銃だって持つだろう。

ひょんなことから極限状態の人間の行動がゾンビ映画のルーツにあったのかと気づかせてくれた映画だった。

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  • 塚本晋也
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