学部2年生の授業で模擬授業を行っている。模擬授業は2回計画していて、1回目は国語の文法の授業(教材は指定:国語文法)、2回目は希望の教科で行う。1回目で、授業デザインのコツを覚えて、2回目は自由に挑戦的に授業デザインを作ってもらおうという意図だ。受講生が多いので、3〜4名のグループで授業デザインを考える。
- 国語の授業で文法って?
- 日本語を「正しく」使えるようになるため?
- 他言語を学ぶときのため?
- 時間的な前後を示すつなぎ言葉
- 「つなぎ言葉を正しく使おう」
- つなぎ言葉で時間的な前後を入れ替える
- つなぎ言葉を使って、時系列を入れ替えてみよう。
国語の授業で文法って?
受講生や、私もそうだったのだけれど、文法の授業って、言語を体系的に整理された「文法」用語の暗記、文法のルールに従った分類、ルールに適応した用語をその語に当てはめるというような授業ばかりを受けていたので、「文法の授業って何でやるの?」なんていうことは全く考える機会はなかった。
きっと受講生の頭の中には、「テストの点数を取るために覚える」というものだっただろう。「重い」は形容詞、「思い」は名詞、「思う」は動詞なんていうように品詞を覚えた。
この講義の目標は、「大学生が、この文法の模擬授業を受けて、「あ、そういうことだったのか!」というように「体感」する。」というものである。
日本語を「正しく」使えるようになるため?
「きれい」は形容詞ではなく、形容動詞の語幹だ
なんていうことが分かったからといって、日本語が上手くなるわけではない。そんなことを知らなくても、受講している大学生は日本語を使える。いや、扱う単元が掲載されている教科書は小学校のものなのだが、小学生だってそんなこと知らなくても、「花が綺麗。」「花が綺麗に咲いている。」というように使える。小学校低学年ぐらいでは、「花が綺麗く咲いている。」と誤用するかもしれないが、それは自然に直る。文法を覚えなくても。
じゃあ、文法を学ぶ意味は何だろう?
他言語を学ぶときのため?
これはある意味真理だ。日本語文法を学び、自分の使っている語を体系化しておくと、他言語を学ぶときに少しは役に立つ。品詞を知っていれば、他言語にも適応できる。しかし、その程度だ。日本語動詞の活用を知ったからといって、英語動詞の活用に適応できるわけではない。日本語や英語にはない他言語の男性名詞、女性名詞、中性名詞に出会ったとき、日本語文法学習なんて何の役にも立たない。
他言語を学ぶときには少しは役に立つのだが、「なんで自国語はこうなのに、今学んでいる語はこうなんだろう?」という疑問が生まれる程度なのでは?と思ってしまう。
そして、例えば、将来英語を学ぶとして、「国語を学ぶ意味は何ですか?」に答えられない教師が、「なんで英語を学ぶの?」ということにまともに答えられるとも思えない。ICTがどんどん発展していく今、英語を学校教育で学ぶ意味が、ICT未発達だったときに比べてぼんやりしてきている。
時間的な前後を示すつなぎ言葉
そんな中、あるグループが、
つなぎ言葉(接続語、接続詞等)は、時間的な前後を表すことができ、表現の順番が同じでも、つなぎ言葉を変えると、時間的前後を変えることができる
ということに気づいて授業デザインを持って来た。つまり、
つなぎ言葉を使うと、微妙な時間的前後を表現することができる→つなぎ言葉を学ぶと微妙な表現ができる!
ということを「体感」させることが目標だった。これは期待できる。私にもこの視点はなかった。
「つなぎ言葉を正しく使おう」
過去、「つなぎ言葉を正しく使えるようになろう」なんていう授業デザインを持ってくるグループがあった。
「正しいつない言葉」って何だ?
というツッコミをいつも入れていた。だいたいこんな例文を課題として提示する。
雨が降ってきた。( )傘を持ってこなかった。
いかにも教科書の例題に載っていそうなものだ。そして「しかし」を入れさせたいというのが見え見えである。
「そこで、「だから」を入れたら間違いなの?」というツッコミを入れる。間違いではない。雨に濡れたい人はわざと傘を持ってこない。そういうシチュエーションだってあり得る。言葉遣いに絶対的な「間違い」なんてないのだ。ニュアンスや背景が伝われば「正しい」のだ。つまり、正しさの判断は、「表現者の意図が受取手に伝わるかどうか」なのであって、絶対的な「間違い」は存在しない。
目標に「適切な使い方を学ぶ」や「正しい使い方を学ぶ」と書いてくるグループには、「その適切さ(正しさ)は、誰がどのように判断するんですか?(評価規準は何ですか?)」というツッコミを入れまくる。
つなぎ言葉で時間的な前後を入れ替える
さて、先ほどのグループの話に戻ろう。こんな例を作ってきた。
- ① ビール、ワイン、そして焼酎を飲んだ
- ② ビール、ワイン、それから焼酎を飲んだ
- ③ ビール、ワイン、それまで焼酎を飲んだ
①②と③を比べると、焼酎を飲んだ順番が①②では後で、③は先ということが分かる。語順は同じだが、時系列が逆転する。
さらに、①と②を比べるとほんの微妙なニュアンスであり、受取手によっては違うのかもしれないが、焼酎を飲む間隔が、①よりも②の方が長い感じがする。「敢えて違いを受けとるとすると」という条件を付ければ、そのように感じることになるのでは?と思う。
こんなことを導入に、時間的な前後をさらに考えさせる課題に移る。
つなぎ言葉を使って、時系列を入れ替えてみよう。
(ア)「自炊をした」
・( A )
(イ)「服をたくさん買った」
・( B )
(ウ)「バイトを頑張った」
時系列を(ア)→(イ)→(ウ)にするには、( A )、( B )のどちらにも「そして」を入れればいいわけなのだが、時系列を(イ)→(ア)→(ウ)にするには、( A )、( B )にどんなつなぎ言葉を入れればいいだろうか?
こんな課題で頭の中はぐるぐる回る。そうすることで、つなぎ言葉の効果や役割(今回は、時系列を決める効果)を「体感」することができる。
素晴らしい授業デザインだった。ただ、これらを20分という短い時間で上手く伝えて、取り組ませるのは、けっこうなテクニックが必要だった。